ビジネスをする際に取引先との間で締結する「契約書」。 秘密保持契約書や売買契約書など一般的な契約書もある一方で、事業を今後拡大させるために取引先との間で何かのライセンスを受けることもあるかと思います。例えば、皆さんの中にも「iPhone」を日頃使用されている方もいらっしゃるかもしれません。日本において「iPhone」の商標権を持っている会社は、アメリカのApple社ではありません。インターフォンでお馴染みの名古屋市に本社があるアイホン株式会社が商標権を保有しております。 では、なぜ、Apple社は、「iPhone」の商標権を保有していないのに、「iPhone」の商標を使用できるのかと言えば、両社の間に「ライセンス契約」が締結されているからです。 つまり、「ライセンス契約」というのは、事業の根幹をなす重要な契約書であり、それだけにライセンサー(ライセンスをする者)とライセンシー(ライセンスを受ける者)との間では、契約交渉が難航する場面もあります。 ライセンス契約では、特許発明、著作物(キャラクターなど)、デザインなども対象となりますが、この記事では「商標(ブランド)」を念頭において、以下解説をさせていただきます。
どこまでだったら譲れるかを予め決めておく
ライセンス交渉をする際に、最も重要になるのが「ライセンシングポリシー策定の重要性」であると考えます。 ライセンシングポリシーとは、「どこまでだったら譲れるか」「どこまでは絶対に死守したい」などライセンス交渉にあたっての自社の交渉スタンスを決めるものです。ライセンス契約においては、提示したドラフトがそのまま締結されることは珍しく、何かしらの修正がなされることが多いです。 そのため、その修正の要望に応じて良いのか、応じてはいけないのか、など予め自社のスタンスを明確にしておかないと、相手がリードするままに契約書を締結してしまうことになってしまいかねません。そうなってしまいますと、長期間に渡って自社のビジネスに大きな負の影響を与えることにもなってしまうリスクがあります。 例えば、ライセンス料をめぐっては、2度や3度の交渉ではなかなかまとまらないことも多いですが、根負けしてしまって、高いライセンス料を支払う契約を締結してしまうと、ライセンスを受けられるのは良かったものの、利益を圧迫し、事業の採算が得られなくなってしまうリスクがあります。特に、ライセンス料については、ライセンスを受ける前提になるものですので、交渉の最初の段階で両社の実務的な合意を得ておくことが重要です。
ライセンスを受ける対象・範囲を明確にする
冒頭にご紹介した「iPhone」の例を見てみると、ライセンスを受けるにあたって、商標権の範囲を判断する際に、商標とともに指定商品・指定役務を確認しておく必要があります。
指定商品・指定役務は、第1類から第45類までの区分に分かれており、自社がどの範囲でライセンスを受ける必要があるのかを明確にしておくことが重要です。
また、実際に使用を希望する範囲のみで十分とするのか、それとも、将来の事業の拡大を見据えて、広い範囲でライセンスを受けるのか、予めライセンシングポリシーを決めておくことが重要です。特に注意しなければならないのは、自社が使用したい範囲がライセンス契約に適切に規定されているかどうかの確認です。もし、現在第三者からライセンスを受けており、ライセンス契約書に記載の内容と実態が異なっている場合には、気づいた段階で「変更覚書」を締結するなどして、早めに対処しておいた方が良いでしょう。
どのような権利の許諾を受けるか
では、対象が明確になったとして、ライセンサーからは、どのような権利の許諾を受ければ良いのでしょうか。法律的には、「通常使用権」「独占的通常使用権」「専用使用権」など紛らわしい用語がいくつかあるので、整理をしておきたいと思います。 「通常使用権」とは、ライセンシーは許諾対象となっている商標を単に使用することができるにとどまる権利です。そのため、ライセンサーは、その商標を第三者に使用許諾することもできてしまいます。もし、御社がその商標(ブランド)を自社だけで使用したいと考えている場合には、「通常使用権」を選択してはいけないことになりますので、注意が必要です。本当は自社だけで使用できると考えてライセンス契約を締結したものの、契約書には、「通常使用権」と規定されていた場合には、競合他社も同じ商標(ブランド)を使用してしまうリスクがあります。 では、自社だけでその商標(ブランド)を使用したいと考えている場合には、どのような権利を選択すれば良いのでしょうか。この場合には、「独占的通常使用権」又は「専用使用権」を選択すべきと言えます。まず、「独占的通常使用権」とは、ライセンサーがライセンシーである御社のみにその商標(ブランド)を許諾するのであって、第三者には許諾できないという内容になります。そのため、競合他社が同じ商標(ブランド)を使用することは(契約違反でもない限り)想定されません。 では、似たような権利として「専用使用権」がありますが、この権利は、ライセンサー自身もその商標(ブランド)が使用できないとする内容になりますので、上記3つの権利の中では、最も強い権利になります。
まとめ
今回は、取引をする際に重要となる契約書の中でも、特に事業の根幹ともなり得る「ライセンス契約」を取り上げてみました。現在の「ライセンス契約」が適切かどうか、また、事業の拡大に伴い今後ライセンス契約を締結する場面が想定されるようであれば、これを機会にライセンス契約についての理解を深め、御社の事業の拡大にお役立ていただけますと幸いです。
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